番外編

過去の物語

その日、珍しく村に冒険者がやってきた。

まったくない、というわけではないものの、

都から遠く離れたこの村に、余所者がやってくるというのは

一年に一度あるかどうかだろう。

冒険者は女の人で、黒い長い髪を後ろでひとつに纏めていた。



僕はまだ、村という狭い世界しか知らない。

だから、時折やってくる冒険者から村の外の話を聞くのが大好きだ。

龍を退治したっていう話。

色々な街の特産品。

命からがらの脱出劇。

カラクリの兵士の話。

村の中だと体験できないことばかり。

僕はお話を聞かせてもらおうと思って、

冒険者のお姉さんに話しかけた。


「お姉さん、こんにちは。」

「ん？」

話しかけられたのが意外だったのか、

キョトンとした顔でこちらを見てきた。

「坊や、ボクに何か用？？」

それも一瞬だけで、こっちが子供だと分かった瞬間、

にっこりとした笑顔でこちらに話し返してくれた。

「ねぇ、お姉さん。僕、冒険談聞かせて欲しいんだけど、ダメかな？」

少し小首を傾げて、上目遣いでお姉さんへとお願いしてみる。

子供ってこういうとき便利だよねー。

「うーん、別にかまわないけど。どんなこと聞きたいの？」

「どんなことでもいいよ！お話聞かせて！」

僕はお姉さんの手を引っ張って、急かすように

座れる場所へと移動した。




「あ、そうだ。僕はアルファ！お姉さんのお名前は？」

今更ながらも、自己紹介。

もしかしたらこれっきりの付き合いになるかもしれないけど、

とりあえず『坊や』って呼ばれるのを避けたかった。

「ボクの名前は、･･･ナイショ」

人差し指を口元に当てて、そう言ってきたお姉さんは

なんだか見た目よりも幼い気がした。

「それより、アルファ。北のほうのゴルダ鉱山って知ってる？」

冒険談開始！

突然話を変えられたけど、それよりも僕はこれから話されるであろう内容に

目を輝かせながら答えた。

「うん、知ってるよ！あそこ強いロボットがいるんだよね！！」

「そうそう。秘宝を守ってるって聞いて、あいつを倒しにいったんだけど･･･」

「え、その話は初めて聞いた！秘宝ってどんな凄いものだったの！？」

「うーん、実は『家内安全』のお守りだったんだよー」

「えー･･それってご利益あるの？？」

「全然。売ろうにも店も買い取り拒否だし名前だけだった」



「あ、あと。バルバシア兵が守護してる砦が3箇所ほど存在するんだけど」

「うんうん！第１から第３砦ってとこだよね！！」

「そうそう。あそこ全然守りができてなくて、武器防具お持ち帰りし放題！」

「えー。それって･･いいの？」

「いいのいいの。だって、バルバシアの戦力を減らすことにもつながるし、

こっちも旅の資金を稼げるし。一石二鳥ってやつだよ！」

「なるほどー。確かに旅をしてると資金繰りは問題になってくるもんね」



お姉さんのお話は、お宝情報とか、資金調達最適箇所とか

そういった内容のものがほとんどだった。

うん、今までの冒険者とは全然違う内容で楽しかったよ！！


ただ、次の日、村からお姉さんの姿は消えていた。

そう、村に伝わるという宝玉と一緒に･･･

犯人は十中八九あのお姉さんだろう。

冒険者の顔をよく覚えてるよ！というのを理由に、

僕は、盗人女を追いかける許可を貰い、旅へと出発した。