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旅日記 その1
「やっとたどり着いた・・・」

太陽が西に傾き始めた夕刻時、一人の少年がディアス国の入口。巨大な門の前に立っていた。年のころは十代の始めだろうか。名はアルファ。
ある女冒険者を追って、ディアスの南にあるイスパーンという国からやってきたのだ。というのは建前で、本当は観光目的である。

「おい、そこの小僧。止まれ!」

アルファが門を通過しようとしたところ、一人のディアス兵が声をかけてきた。
今、ディアスは西の大陸にあるバルバシアと緊張状態にある。故に西へと赴く冒険者を募ってはいるのだが、だからといってすんなり入国を許してくれるわけではなさそうだ。

「小僧、親は一緒ではないのか?」

兵士が尋ねてくる。それもそうだろう。アルファは誰が見ても『子供』なのだ。保護者のない子供を見て兵士がいぶかしむのも無理はないだろう。
アルファは村を出るときに渡された、己の身分を示すものを兵士に見せた。

「僕はイスパーンの外れにある村からきました。僕と同郷の者が既に何人かここを訪れているとは思います。」

「あ、ああ。君も魔術師の村の?」

「はい。」

アルファの答えに、兵士の顔つきが変わった。イスパーンはもともと魔術に力を入れている国だ。そんな国にある村々は独自の魔法文化を築いている。いわば閉鎖された空間と言ってもいいだろう。外との交流がまったく無いわけではないが、村人たちは極力避けている。それゆえにイスパーンにある村の多くが謎めいているという意味も込めて魔術師の村と呼ばれているのだ。

「事情は聞いている。道中気をつけて。」

「ありがとうございます。」

入口をクリアしたアルファは、歩き疲れた体を休めようと早速宿屋を探した。国に入ってすぐのところに、大きな広場があった。中央には噴水が、夕刻だと言うのにその周りを囲むように多くの人々でにぎわっている。
その広場の周りにはいくつか建物が並んでいて、その中にある一軒の宿屋へアルファは足を向けた。

「はぁー、疲れたー。」

「ヒヒヒッ、国に入るにも宿を取るにも説明ご苦労さん」

アルファしかいないであろう空間から突然声が聞こえてきた。アルファの胸元にあるバッチが喋り始めたのだ。

「あれ、ぐぅ太。起きてたの?」

ぐぅ太。そう呼ばれたバッチは、ただの喋るバッチ・・ではなく、こんな形でもアルファの使い魔なのだ。(もちろんバッチの姿のままでは戦えないので、戦闘中はきちんと人型に戻してもらっている。)

「その名前はやめろ!俺にはきちんと名が・・・」

「だって、教えてくれないんでしょ?なら好きなように呼ばせてもらうよ。」

ぐぅ太はもともと、グールという人喰いの魔物の種族である。そんな魔物や悪魔達にとって真の名というものは、決して他人に知られてはならないものなのだ。少なくとも、ぐぅ太がいた世界ではそうであった。故に、アルファに名前を聞かれたとき『好きなように呼べ』と言ったものの・・・。

「・・・・・ならもう少しセンスある名前を」

「なんか言った?(笑顔)」

「いや、いい。」

まさか『グールだからぐぅ太!』などと単純な名前にされるとは考えてなかったらしい。偽名でいいから自分で名前を考えるべきだった・・・と思ったのだが、後の祭りである。

「・・・・だけど、本当大変だよね。この年齢での旅って。どこへ行くにも何をするにも全部説明しないとだし」

そう、この宿屋へ泊まるにも一人旅をしている理由を宿屋の人に説明しないといけなかったのだ。村を出てから既に10回以上同じような内容の説明を繰り返したのではなかろうか。アルファは既にそっちに疲れていた。

「大人しく村に帰ったほうがいいんじゃないか?」

ニヤニヤと笑いながら聞いてくる己の使い魔に、アルファは頬を膨らませる。

「嫌だよ。漸く村から出たって言うのに!!・・・一緒に冒険してくれる人でもいれば違ってくるのにな。」

「ガキのお守りなんてしてくれる冒険者なんていないんじゃないか?何せ魔法も録に扱えない半人前だしなー」

「・・・・・・・っ!!!!」

アルファの体には、あちこちに紋様が刻まれている。一見魔術師の子供、に見えなくもないのだが、その紋様の意味は『魔力の安定』。アルファの魔力は不安定で、成功するときとしないときがあるのだ。常に安定して魔法が使えるようにと紋様の力を借りているのだが、ぐぅ太の言うようにまだまだ確実とは言えない。

「うるさい。その半人前な子供の契約の呪文に引っかかったのはどこの誰だよ!」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

今度はぐぅ太が押し黙る。それに満足したのか、アルファはベッドへ横になった。瞬間、旅の疲れが来たのか、アルファの瞼は急に重たいものへと変わる。

「うん、まぁ・・とりあえず。僕は疲れて眠たいから・・今日は寝よう・・・明日また考えればいいよ・・・おやすみ・・・・。」

アルファはすやすやと眠りに落ちていった。その眠りに釣られるかのように、ぐぅ太も眠りについた。

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